2012年4月16日月曜日

(無題)

��無題)

 真珠である。親指大の大変立派なものである。あんまり立派だったので祭壇に飾ることにする。浅瀬に作られた大理石の祭壇に飾る。暮れ泥む空。波が寄せて返す。手のひら大の深紅の絹に真珠を乗せると、ちょうど夕陽と重なる。眩く、とても目を開けていられない。高鳴る潮騒は幻聴のようで幻聴ではない。間もなく沈む祭壇、潮位はぐんぐんと、しかし静かに高度を上げていく。私は真珠を拾わなければならない。一度だけ天を仰ぎ見て海に潜る。潮位の上昇速度よりも速く泳ぎ下っていくと間もなく一点の深紅と、それよりもさらに小さい真珠を発見する。深紅に迫るほどにそれは大きくなる。視界の端まで深紅に染まる。次いで、真珠色に染まる。私の手のひらが真珠の表面に触れる頃には辺り一面は真珠の地平である。見上げれば、暮れ泥む空。寄せて返す波の音は幻聴のようで幻聴ではない。音のする方へ歩き出す。凹凸もなく滑らかだった地表が次第に色彩を帯びだす。草地に変わり、木々が生まれ、ほとんど洞窟のような森を歩く。その彼方には常に黄金色の光に溢れる出口がある。潮騒は止まない。幻聴のようでしかしやはり幻聴ではない。歩く。歩き続ける。そうして出口を抜けるとそこは浅瀬である。既に踝は海水に浸っていた。振り返れば森はない。全方位にわたって水平線が広がる。ただし墓石のような大理石が立っている。歩きだす。足元に光るものを見つける。

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 一行幅の細長い紙に両面印刷してメビウスの輪にしてみて、エンドレスな物語を作ってみやう、という話の流れで。
 しかしこれは長すぎるだろう。(583字)

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