「エーデルワイス」
たとえば地底の底。濾過された雨水は純水となって地底の空間に満ちている。光はなく、ただ水の滴る音だけが。暗闇の中、波紋が同心円状に広がる様子をあなたは想像してみる。
あるいは宇宙の果て。まだ光も生まれていないその場所で犬の亡骸が漂っている。慣性でゆっくりと回転しているそれをあなたは見送った。
それから廃都。何百年、もしかしたら何千年も昔に滅んだそこは、かつてそこに人の住む都があったということ以上の情報を持ち合わせていない。人工の造形物から人の営みの名残や人の想いの残滓をあなたは見出すことができない。
あなたが想像したこれらの場所は、この世界のどこかに存在したかもしれないし、これから存在するのかもしれない。しかし、今あなたがそれらのことに思いを馳せたということ、ただそれだけがたしかな事実なのだ。どうかそのことを忘れないでいて。