2008年2月13日水曜日

勿忘草

「勿忘草」

 コンコン、という音で目が醒めた。スズメがくちばしで窓を叩いていた。
 窓を叩きながらスズメが、小さなごま粒みたいな眼でこちらを真剣に見つめていたものだから、どうしたのだろうと窓を開けてやる。するとスズメは咥えていた小さな青い花を窓縁に置いて、そのまま飛んでいってしまった。何の花だかよくわからないけど、せっかく貰ったものなので活けて飾っておいた。

 この話をすると恋人は「愛されてるのね」とくすくす笑う。何だかよくわからないけど笑ってくれたのだから、まあいいかと思ってしまう。




 お題26。次は「絵の中の風景」
 勿忘草の別名がforget-me-not(別名でもない?)で、「私を忘れないでください」という意義がどうにも好きになれない。悲恋というよりもエゴイスティックなイメージの方が強いせい。


 この頃は、はあはあしてるだけだったはずの超短編温泉部@月島に行ったりskypeなんか始めちゃったり朗読会にも出させてもらったりと何だかんだで色濃かった気がするぞ。
 とりあえず月島は、ひょーた君に尻を撫でられ女王様が自分の乳を揉んでたのが印象的でした。


2008年1月16日水曜日

春眠

「春眠」

 田舎の春霞はほんのりと桃色に色付いていた。霞を掻き分けあぜ道を行くとやがてポストがうっすら浮かんでくる。
 ポストの前まで来て、陰のベンチで手紙を持った娘が居眠りをしているのに気付いた。お嬢さん、と声を掛ける。娘はぼんやりとしたままこちらを見上げ、私を認めるとハッと双眸を見開き、黒目は色を持つ。そして私はその黒目に一瞬の物語を見る。
 そこは草木の枯れた鉱山で、たくさんの男たちがつるはしやトロッコを携えて山の入り口から出てきていた。私はやがて一人の男を見つけ、視界が細くなったのだから目を細めたのだろう、一方男もこちらに気付き、手拭いで滝のように流れる汗を拭いながら応えるのだ。
 郵便屋さんですね。
 あ、……はい。
 では、これをよろしくお願いしますね。どうしても直接お渡ししたくって。
 娘は目を伏せ唇の端を緩ませると、私の手に手紙を忍ばせた。そして私が来た道を歩いていく。
 娘が春霞に隠れた直後に、さあと風が吹く。白濁した世界が澄み渡る。しかしそこに娘の姿はなく、桃の甘い香りが鼻腔を微かにくすぐるばかりである。



 タカスギさんのコトリの宮殿に出し損ねたもの。


2007年12月27日木曜日

盲目少女

「盲目少女」

 盲目少女は七歳のときに光を失った。菌が眼球をすっかり虫食いにしてしまったのだ。痛みはなかった。
 涙と思っていたものは融けたガラス体で、ねえおかあさん、と母親の方を向き直ったとき母親はすぐには助けてくれなかった。理由は母親の息を呑む音で判ってしまった。哀しかった。そのときにはもう何も視えなかったけれど、窪んだ目の穴に残った水溜りみたいなガラス体に夕陽が反射して、きらきらと、ちくちくと、とおい昔に両親に連れられて行った岩場の浅瀬をぼんやりと思い出すのだった。
 岩場の浅瀬。バケツいっぱいにあさりとざりがにと綺麗な石を拾った。波の音なんて少しもしなくて、びょおうびょおうと風が吹くばかりで、見上げた父の顔は夕陽の陰影に隠れていたけれど微笑んでいたのは確かだった。
 ――、おいで!
 母親に呼ばれて盲目少女は浅瀬に足を入れ脛まで濡らす。水はひいんやりと冷たかったがすぐに肌に馴染み、ビーチサンダルは水の抵抗で重く、磯の香りは一層強くなる。ようやく辿り着き母が見せてくれたのは水平線ぎりぎりを横切るタンカー。いつまでも横切り続けていた――。
 鍋が泡を吹く。この日はあさりの味噌汁だった。ねえおかあさん。おかあさん。いつまでも、ずっと、盲目少女は母親を呼んでいたような気がする。



 あーうー。何から書いたらいいんだか。とりあえずメモメモ。

 ・タカスギさんの第一回コトリの宮殿に出品し損ねる。
 後は推敲するだけだったのにクリスマスでどたばたしてたらすっかり忘れてしまったのです。

 ・吸血鬼の話
 800字掌編は今野ベストの+αに引っ掛かってたらしい。うん。分母を考えれば一生分の運を使い果たした気分。

 ・クリスマス
 気が付いたら終わってた。クリスマスケーキは無事全部売れました!ばんじゃい。
��ちっ、残ってたらロスでタダ食い出来たのになッ)

 ・来月ひょうた君と女王様が一緒に風呂に行くとか行かないとか。
 はあはあしてきた。反省はしてない。


 ではでは皆様良いお年を。

2007年12月16日日曜日

仮面

「仮面」

 今朝学校へ行くと僕以外のみんなが面をつけていた。ネコの面の子が「おはよう片山くん」と言う。何故面を、と問うには自然すぎる振る舞いで。
 チャイムが鳴り先生が現れた。イヌの面。ウサギの面の女の子が続く。転校生だ。
 初山理恵子です。
 ぺこりと頭を下げ、顔を上げたとき初山理恵子と僕は目が合った。面の奥にある真っ黒な目がじいっと僕の顔を捉え、思わず息を呑む。耐え切れなくなり目を背けた。
 ある時、初山理恵子と一緒に兎小屋の掃除をすることになった。転校以来初めて話をする機会だ。そこで初山理恵子は夢の話をした。自分はたくさんの仮面の上を歩いていて出会う人は誰もが仮面を被っているのだという。変な話だよね、と初山理恵子は照れ隠しに僕に背を向け、トラの面を被った兎たちを隣の柵へと移していく。何だよそれ。僕は初山理恵子の後ろに立ち、初山理恵子の面を剥ぎ取った。わっ、と泣き出す面の下はウサギの面。手にした面を僕は被る。すっかり初山理恵子になった僕はトラの面を初山理恵子に被せ、兎小屋に閉じ込めた。
 翌日先生が、片山はご両親の都合で急遽引越した、と告げた。
 りえちゃん何でかしってる? 知らなぁい。
 幸い教室から兎小屋は見えない。




 心臓タイトル競作「仮面」、○:3、△:1、×:1でした。ごち。
 今回は鳴かず飛ばずか、と(若干)しょぼくれてたら最後のほうに正選が立て続いてびっくり。


 ところで巷が800字吸血鬼掌篇とか諸々で盛り上がっている模様。かく言う僕自身も東さんのベスト50に白縫名義で出したものが入ってて驚き。あんなものが選ばれちゃっていいのかしらん、あまつ朗読会で読まれたりなんかしちゃったらキャーキャー////なんてこと考えたすぐ直後に、はぁ、とため息。アホくさ。
 というわけで朗読会に行かれる方は楽しんでらっしゃいませ。おじさんはパン屋で格闘してます。クリスマス前のパン屋は戦場なのです。fucking christmasが合言葉です。いや本当に。あのデカいデコレーションケーキには独り身の人間の恨み辛み妬み憎しみがぎっちり詰まっているのです。

2007年11月28日水曜日

朗読会

・一週間くらい前にマメBOOKSの朗読会@高円寺に行ってきましたことよ。道に迷ったのは言わずもがな。
・空虹桜嬢と一年ぶりに再会。
・女王様の左斜め後ろに陣取る忠犬っぷりを如何なく発揮(地味に)。
・で、女王様の髪のカーブ具合をたっぷり堪能。
・栗田さんは相変わらず凄い。
・途中の来場者参加型企画に参加して、おみくじ超短編を引く。おヒゲ作「ツノ」を朗読していただく。わーい。
・赤井さん二連覇おめでとうございます。ぱちぱち。
・朗読会終了後はバイトのため退散。色々お話とかしたかったのになー。

 という具合。
 気付けば11月も終わりですねえ。きゃー。

2007年11月11日日曜日

白い棺

「白い棺」

 明かりのない夜道を、白い棺を担いで歩く一行がある。一行は皆黒服に身を包んでいるため、白い棺だけがボウと光り浮かんでいるように見える。
 一行は山の方から来て海へ向かっている。棺を流すためだ。夜のうちに棺を流し、死者は天に昇らなければならない。昇れなければ魂が消滅してしまうのだ。御天道様が強すぎるが故に。
 音のない浜辺に棺を下ろし、心なしか明るくなってきた東空を背負いながら一行は棺を海へと送り出す。白い箱は波の寄せて返す律に沿い沖へ沖へと進んでいく。いつか水平線の彼方に達したとき、死者の魂は天に到達するのである。

 今朝はそういう夢を見た。右手を握り、開き、見下ろす。いつか自分がそうなったときも、誰かが送り出してくれるのだろうか。葬式があるのは遺された人のためであると思っていたけれど、誰のためでもなく自分のために、そういう人が居て欲しいと今は願う。



 今年も文学フリマに顔を出してきましたことよ。
 今年の収穫物ははやかつ作品集と超短編マッチ箱第七号。うまうま。
 お会いした方々も相変わらず元気そうでなにより。
 ねたかんとは友達以上恋人未満忠義の仲を再確認出来て喜ばしい限り。脳内亭さんも相変わらず有難い。

2007年11月5日月曜日

タイムカプセル

「タイムカプセル」

 タイムカプセルを籠に盛り、ブン、と空に向かって力いっぱい投げつける。太陽と重なり合って一瞬だけ蒸発した後にばらばらとタイムカプセルが落ちてくるが、中には落ちずに消えてしまうものもある。それこそが本物のタイムカプセルだ。どの未来に落ちるか定かではないけれど。

 *

 こつん、と頭に何かが当たって地面に落ちた。真鍮で出来た野球のボールみたいなそれは一見すると金属であるが持ってみると驚くほど軽い。どこから降ってきたのか見上げてみるが、空は夏の色。と、遠くからセスナの唸り声。後でタイムカプセルと知るそれを右手に今はただぼうと空を見ている。




 妹が「大学は楽しくなさそう」と言うので理由を聞いてみたら、「あんた(オイラ)が楽しくなさそうだから」だそうな。取り澄ました様子がそう見えるらしい。自覚はないけれど。
 楽しいか楽しくないかで言えば楽しいけれど、巷の大学生みたいにわーっと騒ぐ楽しみ方はしないだけなのだよ。御隠居みたいな余生。