「月を抱いて眠る」
誰かに後をつけられている気がして振り返ると月であった。おいで、と手招きすると、月はスススと降りてきて僕の腕の中で収まった。バスケットボール大の大きさだった。見事な満月で、抱いた腕が仄かに温かい。
僕はソファーに座り、月は僕の膝の上に座る。球面を撫で、特にクレーターの凹んだ部分を掻いてやると月はとても喜ぶ。
テレビでは突然月が消失したといって連日連夜の大騒ぎである。
「帰らなくていいの?」と訊ねると月はぐっと体を押し付け拒否の意を示す。
ある晩、月が夜空を見上げているのを見つけた。三日月である。月は僕に気付くと振り返り、僕に体をぐりぐりと押し付ける。
月を抱いて眠るとき、月の事情というものを考える。きっと僕には伺い知れない事情があるのだろうと思う。
これは決していつまでも続く暮らしではない。
けれど、安心しきった風に体を投げ出す月を見てしまうと、せめて眠っている間だけは、と思ってしまう。
��**
いつまでも胸を揉む話がトップにあるのはしのびない。
2011年9月14日水曜日
2011年8月31日水曜日
2011年8月15日月曜日
木になる
「木になる」
ガラスの向こうに脚を置いてきた。壊死だった。
どうせ捨てられるならせめて、「あの高台のポプラの下に埋めてほしい」。彼は果たしてそれをやり遂げた。
以来、なくした脚は二つ、四つ、八つと分かれ、甘い露を吸う。私は潤い、そして声を失っていく。
��**
ツイッターで見かけたお題の勢いそのまま。
ガラスの向こうに脚を置いてきた。壊死だった。
どうせ捨てられるならせめて、「あの高台のポプラの下に埋めてほしい」。彼は果たしてそれをやり遂げた。
以来、なくした脚は二つ、四つ、八つと分かれ、甘い露を吸う。私は潤い、そして声を失っていく。
��**
ツイッターで見かけたお題の勢いそのまま。
屋根裏帝国と床下の魔物たち
「屋根裏帝国と床下の魔物たち」
鼠か何かが天井裏を駆けたようだったので、クイックルワイパーの柄で音のした辺りを二、三回ほど突いた。静かになった。一応屋根裏を覗いてみると、そこにはミニチュア模型で作ったような都市が一面広がっていた。ナノスケールの人工の太陽まである。米粒よりも小さな者たちが方々から現れては隠れ、私にはよく聞こえない何かを喚き、間もなく飛来した戦闘機がぱちんぱちんと私の額に爆撃を仕掛ける。これはたまらん、と一旦退散する。退散すればさっきの出来事が嘘のように思えてくるが、もう一度屋根裏を覗いてみるのは躊躇われる。とりあえず、とりあえず、と声に出して呟いてみるが次が続かない。とりあえず、どうするのか。私は混乱していた。
夜半、夢の中で私は糊の利いたスーツを着る初老の男性と机を挟んで向かい合っていた。曰く、彼は屋根裏の都市の為政者で、(途中、三十の民族とおよそ四ヶ月にわたる種族の興亡の歴史の解説を挟み、)要するに私と友好関係を結びたいのだという。ちなみに夢枕に立つ技術はおよそ二日ほど前に出来たのだという。
それから三日ほどして、再び夢を見る。三日前の夢で見た男性に似てはいるが別人であるこの若者は、先日の男性の孫であるという。閑話休題、と言って若者は顔を上げる。曰く、神話の御代以来永らく忘れられてきた地底の魔物が近頃活発に蠢き始めているという。ぽかんと口を開ける私に若者は、大真面目です、と大真面目な顔で釘を刺す。そもそも地底というのがどの程度の深さのことを指すのかすらわからない。ということで我が家の間取りと若者たちの世界の測量単位を比較し計算した結果、どうやら床下程度のところだとわかった。「助けてください」と若者は言う。「日夜、万の魔物が洞穴から表れ人々を脅かしております。倒せど倒せど尽きる様子のない魔物ども、我々の防衛線もいつまで保つか。どうか貴方様のお力を」
翌日、完全防護の服装で意を決して床下の蓋を開き、えいやと懐中電灯を突っ込んだ。なるほど確かに何かがいる。おびただしい数の何かがいる。幸いなことにそれらは飛行能力は持っていないようだった。本当に幸いである。赤や黒の米粒どもがうねり、盛り上がり、私を見上げている。虫眼鏡で覗いてみる。目の無いもの、蛍光色の卵を皮膚の下に抱えるもの、姿態は様々あれど押し並べておぞましい。無数の触手が踊り、異形どもの口からは極彩色の粘液が飛び交い、そんな景色が床下一面にわたって広がっている。不意に米粒どもの動きがぴたりと止まり、二つに割れた。奥の方から親指大のナメクジのようなものが現れ、念力で私に語りかけてくる。曰く、彼女は米粒どもの生みの親であり、万物の創造主であるという。私は屋根裏帝国側の事情を伝え、何とか穏便にならないかと一応問いかけるが、ただちに「言語道断」と言い捨てられる。交渉決裂、敵意を顕わにした米粒どもは一様に真っ赤に染まり、続々と山を為し、たちまち床下から溢れそうになる。吹っ飛びそうになる意識をかろうじて保ちながら何とかバルサンを焚くと、がっちりと床下の蓋を閉じる。ガムテープで目張りをする。
その晩、先日の若者が幾分か老けて現れる。曰く、私の活躍で魔物を退けることができたので、その偉業を称えたモニュメントを建築することになったという。目元に涙を湛えている。
その後の数日間は特に何事もなく穏やかに暮らした。ふと思い出してそっと屋根裏を覗いてみると、屋根裏の人々は死に絶えていた。嗅ぎ覚えのある臭いはバルサンである。大方、魔物が湧いたという穴から煙の残りがこぼれたというところだろうか。半分骨組みを露出させたままのモニュメントもあった。
この話を医者の知り合いにしてみると、彼は私の肩を抱いて静かに首を横に振ったのだった。
��**
ドラえもんにもそんな感じの話がありけり。
鼠か何かが天井裏を駆けたようだったので、クイックルワイパーの柄で音のした辺りを二、三回ほど突いた。静かになった。一応屋根裏を覗いてみると、そこにはミニチュア模型で作ったような都市が一面広がっていた。ナノスケールの人工の太陽まである。米粒よりも小さな者たちが方々から現れては隠れ、私にはよく聞こえない何かを喚き、間もなく飛来した戦闘機がぱちんぱちんと私の額に爆撃を仕掛ける。これはたまらん、と一旦退散する。退散すればさっきの出来事が嘘のように思えてくるが、もう一度屋根裏を覗いてみるのは躊躇われる。とりあえず、とりあえず、と声に出して呟いてみるが次が続かない。とりあえず、どうするのか。私は混乱していた。
夜半、夢の中で私は糊の利いたスーツを着る初老の男性と机を挟んで向かい合っていた。曰く、彼は屋根裏の都市の為政者で、(途中、三十の民族とおよそ四ヶ月にわたる種族の興亡の歴史の解説を挟み、)要するに私と友好関係を結びたいのだという。ちなみに夢枕に立つ技術はおよそ二日ほど前に出来たのだという。
それから三日ほどして、再び夢を見る。三日前の夢で見た男性に似てはいるが別人であるこの若者は、先日の男性の孫であるという。閑話休題、と言って若者は顔を上げる。曰く、神話の御代以来永らく忘れられてきた地底の魔物が近頃活発に蠢き始めているという。ぽかんと口を開ける私に若者は、大真面目です、と大真面目な顔で釘を刺す。そもそも地底というのがどの程度の深さのことを指すのかすらわからない。ということで我が家の間取りと若者たちの世界の測量単位を比較し計算した結果、どうやら床下程度のところだとわかった。「助けてください」と若者は言う。「日夜、万の魔物が洞穴から表れ人々を脅かしております。倒せど倒せど尽きる様子のない魔物ども、我々の防衛線もいつまで保つか。どうか貴方様のお力を」
翌日、完全防護の服装で意を決して床下の蓋を開き、えいやと懐中電灯を突っ込んだ。なるほど確かに何かがいる。おびただしい数の何かがいる。幸いなことにそれらは飛行能力は持っていないようだった。本当に幸いである。赤や黒の米粒どもがうねり、盛り上がり、私を見上げている。虫眼鏡で覗いてみる。目の無いもの、蛍光色の卵を皮膚の下に抱えるもの、姿態は様々あれど押し並べておぞましい。無数の触手が踊り、異形どもの口からは極彩色の粘液が飛び交い、そんな景色が床下一面にわたって広がっている。不意に米粒どもの動きがぴたりと止まり、二つに割れた。奥の方から親指大のナメクジのようなものが現れ、念力で私に語りかけてくる。曰く、彼女は米粒どもの生みの親であり、万物の創造主であるという。私は屋根裏帝国側の事情を伝え、何とか穏便にならないかと一応問いかけるが、ただちに「言語道断」と言い捨てられる。交渉決裂、敵意を顕わにした米粒どもは一様に真っ赤に染まり、続々と山を為し、たちまち床下から溢れそうになる。吹っ飛びそうになる意識をかろうじて保ちながら何とかバルサンを焚くと、がっちりと床下の蓋を閉じる。ガムテープで目張りをする。
その晩、先日の若者が幾分か老けて現れる。曰く、私の活躍で魔物を退けることができたので、その偉業を称えたモニュメントを建築することになったという。目元に涙を湛えている。
その後の数日間は特に何事もなく穏やかに暮らした。ふと思い出してそっと屋根裏を覗いてみると、屋根裏の人々は死に絶えていた。嗅ぎ覚えのある臭いはバルサンである。大方、魔物が湧いたという穴から煙の残りがこぼれたというところだろうか。半分骨組みを露出させたままのモニュメントもあった。
この話を医者の知り合いにしてみると、彼は私の肩を抱いて静かに首を横に振ったのだった。
��**
ドラえもんにもそんな感じの話がありけり。
2011年8月12日金曜日
結晶
「結晶」
岬で海を眺めていると、何かが沖から流れてくるのが見えた。目で追いながら足でも追う。時刻は午前四時。水平線がうっすらと紺色に色付き始めていた。
漂着したのは海の色をした立方体のガラス箱であった。前のめりの体躯が湿った砂に沈み、その足元を波が洗っている。振り返れば僕の足跡。
箱に居直る。
真っ直ぐな辺を指先でなぞる。上の面をスライドさせると、ガラス板がずれて中が明らかになる。覗き込むと、そこにあったのは乱雑に詰め込まれた手首や衣服や靴や手紙であった。察するに持ち主は遠い国の少女のようである。一番汚れていなさそうなボールペンを選んで摘み上げた瞬間、太陽の上辺が顔を出し、ボールペンを始めとする箱の中のものを急速に溶かし始める。黒や赤などの様々な色の靄が立つ。潮風に流されていく。
全てが溶けてなくなった後に残ったのは親指の爪くらいの紫水晶であった。それは僕が摘み上げても溶けることなく、光を受けてきらきらしていた。
見つめ合う。
僕は紫水晶を口に運び、嚥下した。おなかの辺りがぽっと温かくなった気がした。
空になった箱は海へ押し返す。それが再び水平線の彼方に消えていくまで僕たちは見送っている。
��**
タイトル競作「結晶」 △:2
お粗末さま。
広辞苑先生に結晶という語の意味をお伺いしてみると、かなり抽象的な意味であることがわかる。
しかし、字面から連想できるイメージは鉱物であったり化学物質であったりとかなり具体的なものなのだよな。
その辺りのギャップが難しいタイトルだったなぁ。という感想。
岬で海を眺めていると、何かが沖から流れてくるのが見えた。目で追いながら足でも追う。時刻は午前四時。水平線がうっすらと紺色に色付き始めていた。
漂着したのは海の色をした立方体のガラス箱であった。前のめりの体躯が湿った砂に沈み、その足元を波が洗っている。振り返れば僕の足跡。
箱に居直る。
真っ直ぐな辺を指先でなぞる。上の面をスライドさせると、ガラス板がずれて中が明らかになる。覗き込むと、そこにあったのは乱雑に詰め込まれた手首や衣服や靴や手紙であった。察するに持ち主は遠い国の少女のようである。一番汚れていなさそうなボールペンを選んで摘み上げた瞬間、太陽の上辺が顔を出し、ボールペンを始めとする箱の中のものを急速に溶かし始める。黒や赤などの様々な色の靄が立つ。潮風に流されていく。
全てが溶けてなくなった後に残ったのは親指の爪くらいの紫水晶であった。それは僕が摘み上げても溶けることなく、光を受けてきらきらしていた。
見つめ合う。
僕は紫水晶を口に運び、嚥下した。おなかの辺りがぽっと温かくなった気がした。
空になった箱は海へ押し返す。それが再び水平線の彼方に消えていくまで僕たちは見送っている。
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タイトル競作「結晶」 △:2
お粗末さま。
広辞苑先生に結晶という語の意味をお伺いしてみると、かなり抽象的な意味であることがわかる。
しかし、字面から連想できるイメージは鉱物であったり化学物質であったりとかなり具体的なものなのだよな。
その辺りのギャップが難しいタイトルだったなぁ。という感想。
2011年7月26日火曜日
江國香織「なつのひかり」
江國香織「なつのひかり」
毎年夏になるとこれを読む。近年は意図的にそうするようにしているのだけれど。
読むたびに読了後の印象が変わる。
初めて読んだときはまだ18歳で、他の人に遅れてたくさん本を読むようになった時期だった。初読の印象は、「なんじゃこりゃ」。そこに込められたメタファーとか構造みたいなものはまるでさっぱりわからない。でも、異世界を彷徨するような感覚が、なんとなく、好きだった。
次に印象が変わったのは、21歳のとき。最後の、
そして、私は二十一歳になった。
ですとんと腑に落ちた。何がどう落ちたのかといえば、その当時の自分の言葉を借りれば、「なんかよくわかんないけど何かがすとんと、ね」。
そして今年。
今年はなぜか(と敢えて濁してみる)、順子さんの視点で読めた。
この話では繰り返し繰り返し、誰かが誰かを捕えている関係が出現する。順子が幸裕を、幸裕が私を、薫平がナポレオンを、動物園が猿を、両親が兄と私を、子供たちの親がはやと・浩次・彩子を。その関係について、捕える側が関係の維持に躍起になったり、捕えられる側が逃げだそうと奔走したり、あるいは捕われていることに安心したり諦めていたり。そういう連鎖的なつながりの頂点にいるのが“順子さん”なのだよな。
この関係のほぼ枠外にいるのが、遥子であり、あるいはめぐみだったりする。彼女たちはほとんど将来性のないこれらの関係を、遠慮なしに力強くぶち壊す。だから大変まぶしく見える。
この作品の最大の謎(と思っているもの)は、ベティ。
唐突に、しかしずっと昔からいたかのよう文脈に馴染んで出現するベティという登場人物については、ほとんど何も語られていない。最後数ページでちょろっと出てきて、それっきり。あまり表に出て来ない人格であり幸裕と順子さんの結晶なんだろうと踏んではいるけど、推測の域は出ない。存在がすごく抽象的。
だけど、この存在がこの作品の核であり、歪みの象徴なんだろうと思う。
毎年夏になるとこれを読む。近年は意図的にそうするようにしているのだけれど。
読むたびに読了後の印象が変わる。
初めて読んだときはまだ18歳で、他の人に遅れてたくさん本を読むようになった時期だった。初読の印象は、「なんじゃこりゃ」。そこに込められたメタファーとか構造みたいなものはまるでさっぱりわからない。でも、異世界を彷徨するような感覚が、なんとなく、好きだった。
次に印象が変わったのは、21歳のとき。最後の、
そして、私は二十一歳になった。
ですとんと腑に落ちた。何がどう落ちたのかといえば、その当時の自分の言葉を借りれば、「なんかよくわかんないけど何かがすとんと、ね」。
そして今年。
今年はなぜか(と敢えて濁してみる)、順子さんの視点で読めた。
この話では繰り返し繰り返し、誰かが誰かを捕えている関係が出現する。順子が幸裕を、幸裕が私を、薫平がナポレオンを、動物園が猿を、両親が兄と私を、子供たちの親がはやと・浩次・彩子を。その関係について、捕える側が関係の維持に躍起になったり、捕えられる側が逃げだそうと奔走したり、あるいは捕われていることに安心したり諦めていたり。そういう連鎖的なつながりの頂点にいるのが“順子さん”なのだよな。
この関係のほぼ枠外にいるのが、遥子であり、あるいはめぐみだったりする。彼女たちはほとんど将来性のないこれらの関係を、遠慮なしに力強くぶち壊す。だから大変まぶしく見える。
この作品の最大の謎(と思っているもの)は、ベティ。
唐突に、しかしずっと昔からいたかのよう文脈に馴染んで出現するベティという登場人物については、ほとんど何も語られていない。最後数ページでちょろっと出てきて、それっきり。あまり表に出て来ない人格であり幸裕と順子さんの結晶なんだろうと踏んではいるけど、推測の域は出ない。存在がすごく抽象的。
だけど、この存在がこの作品の核であり、歪みの象徴なんだろうと思う。
2011年7月24日日曜日
ペパーミント症候群(リライト)
「ペパーミント症候群」
瓶の中のホムンクルスにペパーミントの種が根付いたので、その子だけ他の子とは異なる特性を備えるようになった。根が彼女の背を割り、芽吹いたばかりの双葉が青々しく、檸檬色の培養液の中で翻る様はまるで翼が生えたようだった。ホムンクルスは混沌とした意識の海を漂う。
最初の変化は、容姿に対する関心の発現だった。髪をいじる、伸びた爪を噛み切る、瓶の内壁に映った自分自身を観察する。瓶の中にビーズを数粒投入してみた。彼女は培養液の中を泳ぎ下り、拳大のビーズを持ち上げる。翌日にはビーズに髪を通し、頭頂部でまとめていた。
そこで今度は苺味の飴の欠片を投入してみた。しかし味覚はまだ発達していないようで、明りに透かすに留まった。
次に衣服を作成し投入する。彼女はそれが何なのかわからないようだった。瓶の前に子役モデルの写真を立てる。するとその日のうちに彼女は衣服を着ることを学習した。
まったく驚くべき発見であり、私は興奮した。しかし間もなく彼女は恋煩いを発症する。瓶に手のひらを押し当てじっと私を見上げている。
月夜の晩に彼女は亡くなった。瓶の蓋を開けると、ミントの香りがぷんと漂った。
��**
「ペパーミント症候群」リライト。
その昔、瓶詰妖精というアニメがございました。
瓶の中のホムンクルスにペパーミントの種が根付いたので、その子だけ他の子とは異なる特性を備えるようになった。根が彼女の背を割り、芽吹いたばかりの双葉が青々しく、檸檬色の培養液の中で翻る様はまるで翼が生えたようだった。ホムンクルスは混沌とした意識の海を漂う。
最初の変化は、容姿に対する関心の発現だった。髪をいじる、伸びた爪を噛み切る、瓶の内壁に映った自分自身を観察する。瓶の中にビーズを数粒投入してみた。彼女は培養液の中を泳ぎ下り、拳大のビーズを持ち上げる。翌日にはビーズに髪を通し、頭頂部でまとめていた。
そこで今度は苺味の飴の欠片を投入してみた。しかし味覚はまだ発達していないようで、明りに透かすに留まった。
次に衣服を作成し投入する。彼女はそれが何なのかわからないようだった。瓶の前に子役モデルの写真を立てる。するとその日のうちに彼女は衣服を着ることを学習した。
まったく驚くべき発見であり、私は興奮した。しかし間もなく彼女は恋煩いを発症する。瓶に手のひらを押し当てじっと私を見上げている。
月夜の晩に彼女は亡くなった。瓶の蓋を開けると、ミントの香りがぷんと漂った。
��**
「ペパーミント症候群」リライト。
その昔、瓶詰妖精というアニメがございました。
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